相場より少し安い。しかも駅から近い。気になって詳しく見ると、条件欄に小さくこう書いてあります。
「定期借家 2年」
普通の賃貸と、何が違うのでしょうか。
先に結論を書きます。
普通借家は、借主が望めば基本的に住み続けられる契約。定期借家は、期間が終われば更新されずに終わる契約です。 定期借家でも暮らしの中身は変わりませんが、「いつまで住めるか」が大家さん次第になります。
この記事では、2つの違い、定期借家で困りやすい場面、そして契約前に確かめたいことを、賃貸の実務に携わる宅建士の私がまとめます。
1. 普通借家と定期借家、何が違う?

| くらべるところ | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 期間が終わったら | 更新できる(借主が望めば基本的に住み続けられる) | 更新されずに終わる |
| 大家さんから終わらせるには | 「正当な事由」が必要 | 期間満了で終わる(事前の通知が必要) |
| 住み続けたいとき | 更新の手続きをする | 大家さんと「再契約」する |
| 契約の方法 | 口頭でも成立する | 書面(電子契約を含む)が必要 |
| 契約前の説明 | 重要事項説明 | 重説に加えて、「更新がない」ことを書いた別の書面で説明 |
| 家賃の増減の請求 | できる | 特約で「増減しない」と決めることもできる |
普通借家では、大家さんが契約を終わらせたり、更新を断ったりするには、借地借家法28条の「正当な事由」が必要です。借主の立場はかなり守られています。
定期借家(借地借家法38条)は、この「更新」の仕組みを外した契約です。期間が終われば、それで終わりです。
2. どんな部屋が定期借家になる?
定期借家は、こんな部屋でよく使われます。
- 転勤中の持ち主が貸している部屋:数年後に戻ってくる予定がある
- 建て替えや売却の予定がある建物:その時期までに確実に空けてほしい
- トラブルを避けたい大家さん:問題のある入居者と更新しないで済むようにしたい
相場より家賃が安めに設定されていることもあります。期間がはっきりしている分、借りる側が受け入れやすい条件にしている、というわけです。
3. 知らずに契約すると困る3つの場面
困る場面①:住み続けたいのに、出ることになる
定期借家では、期間が終わったあとに住み続けられるかどうかは、大家さんが再契約に応じるかどうかで決まります。「再契約可」と書かれていても、それは「応じる可能性がある」という意味で、約束ではありません。
子どもの学区、仕事の場所。生活の予定が「この先も住み続ける」前提なら、定期借家は慎重に選びましょう。
困る場面②:再契約のたびにお金がかかることがある
再契約は、新しい契約を結ぶことです。そのため、物件によっては、再契約のたびに事務手数料や仲介手数料、保証会社の初回保証料などがかかることがあります。普通借家の「更新料」と比べて、どちらが高くつくかは条件次第です。再契約のときにかかるお金を、最初に確かめておきましょう。
困る場面③:途中で解約しにくいことがある
普通借家では、「1か月前に予告すれば解約できる」という特約が一般的です。定期借家でも同じ特約を入れることが多いのですが、入っていない場合もあります。
ただし、床面積200㎡未満の住まいであれば、転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情で住み続けられなくなったときは、借主から解約を申し入れることができ、申し入れから1か月で契約が終わります(借地借家法38条)。特約がなくても、この権利は借主に認められています。
4. 「説明の書面」がなければ、定期借家にならない
定期借家には、借りる人を守るための大切なルールがあります。
大家さんは、契約の前に、「この契約は更新がなく、期間満了で終わります」ということを書いた書面を渡して説明しなければなりません。この説明がなかったときは、「更新しない」という約束が無効になります(借地借家法38条)。
最高裁 平成24年9月13日判決は、この書面は契約書とは別の、独立した書面でなければならないと判断しました。契約書の中に「更新しない」と書いてあるだけではだめで、借主がそのことを知っていたかどうかにも関係なく、形式で判断する、というものです。この事件では、定期借家の条項は無効とされました。
いまは、借主が承諾すれば、この書面をメールやPDFなどで受け取ることもできます(2022年5月から)。どの形でも、契約書とは別に「更新がない」ことの説明を受けたかを確認しましょう。
※実務では、宅建士が重要事項説明とあわせて、この書面の説明を行うことが一般的です。
5. 期間が終わる前の「通知」
期間が1年以上の定期借家では、大家さんは、期間が終わる1年前から6か月前までの間に、「期間満了で契約が終わります」と借主に通知しなければなりません。
この通知が遅れた場合、大家さんは、通知をした日から6か月たつまでは、契約の終了を借主に主張できません。いきなり「来月で終わりです」とはならない仕組みです。
6. 契約前に確認したい5つのこと
- 契約の種類:重説・契約書に「定期建物賃貸借」と書かれているか
- 期間と終わる日:何年何月何日に終わるのか
- 再契約の考え方:再契約の可能性はあるか。そのとき、どんなお金がかかるか
- 途中解約の特約:借主から何か月前の予告で解約できるか
- 説明の書面:契約書とは別に、「更新がない」ことを書いた書面をもらって説明を受けたか
7. まとめ
- 普通借家は更新できる契約。定期借家は期間満了で終わる契約
- 定期借家で住み続けるには、大家さんとの再契約が必要。再契約は約束ではない
- 再契約のたびにお金がかかることがある。最初に確認する
- 200㎡未満の住まいなら、やむを得ない事情があれば借主から中途解約できる
- 契約書とは別の「更新がない」説明書面がなければ、定期借家にはならない(最高裁 平成24年9月13日判決)
ジカビーの一言
定期借家は、悪い契約ではありません。期間が決まっている分、家賃が手頃だったり、きれいな分譲マンションの一室を借りられたりと、うまく使えばお得なこともあります。
大切なのは、自分の暮らしの予定と、契約の期間が合っているか。それさえ確かめれば、定期借家は選択肢のひとつになります。
賃貸の契約やお金のことで迷ったら、LINEでご相談ください。
参考:借地借家法28条・38条、最高裁 平成24年9月13日判決、国土交通省「定期借家制度」パンフレット、法務省「借地借家法の一部改正(電子化)」(2022年5月施行)。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第2章(契約書と重要事項説明)#12。連載の目次を見る