契約の日。宅建士が向かいに座り、分厚い書類を読み上げていきます。
「建物の名称は……構造は……水道は……」
15分、20分と続くうちに、だんだん頭に入らなくなってくる。最後に「ご質問はありますか」と聞かれても、何を聞けばいいのか分からない。重要事項説明(重説)は、多くの人にとってそんな時間です。
私は、その説明をする側の宅建士です。だからこそ、はっきり言えることがあります。
重説の中身を全部覚える必要はありません。本当に聞き流してはいけないのは、「契約期間と解約」「お金と特約」「修繕と退去のルール」の3か所だけです。
この記事では、その3か所でどこを見て、何を聞けばいいのかをまとめます。連載「借りる前に読む、賃貸の話」第2章の入口になる記事です。
1. 重要事項説明とは:サインの前に、宅建士が必ず説明する書類
重要事項説明は、宅地建物取引業法35条で決められた手続きです。不動産会社は、契約の前に、宅建士から借りる人へ、物件や契約条件の大事なことを書面で説明しなければなりません。
ポイントは、契約の「前」に行うことです。重説を聞いて、納得できなければ契約しなくていい。そのための説明です。
いまは、ビデオ通話で行う「IT重説」もできます。賃貸では2017年10月から本格的に始まりました。2022年5月からは、借りる人が承諾すれば、書面を紙ではなくPDFなどで受け取ることもできます。

2. 聞き流してはいけない①:契約期間と解約
まず確かめたいのは、この契約がいつまで続き、どうやって終わるのかです。
普通借家か、定期借家か
重説の「契約期間」の欄に、「定期建物賃貸借」「定期借家」と書かれていたら要注意です。定期借家は、期間が終われば更新されずに契約が終わります。住み続けたくても、大家さんが再契約に応じなければ出ていくことになります。
定期借家の場合は、契約書とは別の「この契約は更新がありません」という説明の書面が必要です。詳しくは普通借家と定期借家の記事で書きます。
解約予告の期間
「解約は1か月前までに通知」なのか「2か月前」なのか。引っ越しが決まったとき、何日前までに言えば家賃が止まるのかが、ここで決まります。
短期解約違約金
「1年未満の解約は賃料1か月分」のような違約金があるかどうか。重説では「契約の解除に関する事項」「損害賠償額の予定又は違約金に関する事項」の欄に書かれます。礼金ゼロ物件の記事もあわせてどうぞ。
ここで聞くこと:「この契約は普通借家ですか」「解約は何か月前に言えばいいですか」「早く解約したときの違約金はありますか」
3. 聞き流してはいけない②:お金と特約
次は、家賃以外に、いつ、何のお金がかかるかです。
家賃以外に払うお金
重説には「借賃以外に授受される金銭」の欄があり、敷金・礼金・保証料・鍵交換費用などの額と目的が書かれます。事前にもらった見積書と、項目も金額も同じになっているかを見比べてください。見積書の読み方は初期費用の内訳の記事にまとめています。
更新料・更新事務手数料
2年ごとの更新で、いくらかかるのか。更新料のほかに「更新事務手数料」がかかる物件もあります。住み続けたときのお金も、ここで確認しておきます。
特約
重説や契約書の「特約事項」には、退去時のクリーニング代や、ペット・楽器の禁止など、その部屋だけのルールが書かれます。特約は原則として有効ですが、何でも有効というわけではありません。特約の記事で、無効になるパターンを解説しています。
ここで聞くこと:「見積書と金額は同じですか」「更新のときは何がいくらかかりますか」「この特約は、具体的に何をいくら負担するということですか」
4. 聞き流してはいけない③:修繕と退去のルール
最後は、住んでいる間と、出ていくときのルールです。
原状回復の考え方
退去のとき、どこまでを借主が直すのか。東京都内の物件なら、「東京ルール」(東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例)にもとづいて、重説とは別の書面で説明されます。
- 退去時の原状回復の考え方
- 入居中の修繕の考え方
- 特約による借主の負担
- 修繕の連絡先
この4つです。退去費用でもめる多くは、ここを読まずに契約したことから始まります。退去時の考え方は原状回復ガイドラインの記事で詳しく書いています。
修繕の連絡先
エアコンが壊れた、水が漏れた。そんなとき、管理会社に連絡するのか、大家さんに直接なのか。夜間や休日の連絡先も確認しておくと安心です。
ここで聞くこと:「退去のとき、借主負担になるのはどこですか」「設備が壊れたら、どこに連絡すればいいですか」
5. もうひとつ:ハザードマップの説明
2020年8月から、重説では、水害ハザードマップで物件がどこにあるかを示すことになりました。洪水・雨水出水(内水)・高潮のマップがある地域では、その位置を地図で説明します。
大田区や品川区には、多摩川や呑川、海に近いエリアがあります。1階の部屋を選ぶときは特に、浸水が想定される深さを確かめておきましょう。
6. 重説を「聞ける時間」にするコツ
- 事前に書面をもらっておく:前日までに重説と契約書の写しをもらい、3か所だけ先に読んでおく。当日は「確認」の時間になります
- 付箋とペンを用意する:分からない言葉に印をつけ、最後にまとめて聞く
- IT重説なら、画面を止めてもらう:聞き取れなかったら「もう一度お願いします」と言って大丈夫です
- 納得できなければ、その日にサインしない:重説は契約の前の説明です。持ち帰って考えることもできます
7. まとめ
- 重説は、契約の前に宅建士が必ず行う説明。納得できなければ契約しなくていい
- 聞き流してはいけないのは「契約期間と解約」「お金と特約」「修繕と退去のルール」の3か所
- 定期借家かどうか、解約予告、短期解約違約金は必ず確認する
- 見積書と重説の金額を見比べ、特約は「何をいくら」まで聞く
- 東京都の物件なら、原状回復と修繕のルールは別の書面で説明される
ジカビーの一言
重説を説明する側として、いちばんうれしいのは質問されることです。質問があるということは、読んでくれているということだからです。
「こんなことを聞いたら失礼かな」と思う必要はありません。分からないままサインするほうが、あとで双方にとって困ることになります。3か所だけでいいので、ぜひ聞いてください。
賃貸の契約やお金のことで迷ったら、LINEでご相談ください。
参考:宅地建物取引業法35条、国土交通省「賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明」(2017年)、国土交通省「水害リスク情報の重要事項説明への追加」(2020年)、東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第2章(契約書と重要事項説明)#11。連載の目次を見る