不動産トラブル回避帳 賃貸編

【原状回復ガイドラインをわかりやすく】どこまでが自分の負担? 部位別の早見表と計算例|宅建士が解説

2026年10月21日

この記事は、退去費用シリーズの3本目です。

退去が決まると、頭をよぎるのが退去費用です。

「壁紙を少し汚してしまった。張り替え代は全部こちら持ち?」
「フローリングのキズ、いくら請求されるんだろう」

どこまでが自分(借主)の負担で、どこからが大家さん(貸主)の負担なのか。その線引きが分からないまま、言われた金額にサインしてしまう人は少なくありません。

先に結論を書きます。借主が払う金額は、おおよそ次の式で決まります。

直す範囲 × 単価 × その部分に残っている価値の割合

この記事では、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をもとに、床・壁・設備の部位別の早見表と、8畳の部屋を例にした計算を、宅建士の私がまとめます。読み終えたら、手元の見積もりがおおよそ妥当かどうか、自分で確かめられるはずです。

1. ガイドラインとは:法律ではないが、国が示した目安

国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、法律そのものではありません。過去の裁判例や取引の実務をもとに、原状回復の考え方を整理した目安です。それでも、管理会社や裁判所が判断の物差しとして使うことが多く、実務では標準のルールとして扱われています。

また、2020年4月に施行された改正民法621条で、通常の使い方でできた傷み(通常損耗)や年月による劣化(経年変化)は、借主の原状回復義務に含まれないことが条文に書かれました。ガイドラインも同じ考え方です。

原状回復の意味や敷金の基本は、前編で詳しく書いています。

2. 傷み方は4つに分けて考える

原状回復の4つの区分。A:普通に暮らしてもできるもの(貸主負担)、A(+G):次の入居者のためのリフォーム(貸主負担)、A(+B):普通にできるものが手入れ不足で広がったもの(借主負担)、B:使い方や不注意でできたもの(借主負担)。

ガイドラインは、部屋の傷みを4つに分けて、どちらが負担するかを整理しています。早見表を見る前に、この4つを押さえておきましょう。

A:普通に暮らしてもできるもの → 貸主負担
日差しによる壁紙の日焼け、家具を置いた床のへこみ、冷蔵庫やテレビの裏の壁の黒ずみ(電気ヤケ)など。経年変化・通常損耗と呼ばれるもので、家賃に含まれていると考えます。あなたが払う必要はありません。

A(+G):次の入居者のためのリフォーム → 貸主負担
傷んでいなくても、次の人に貸すために行う畳の表替え、網戸の張り替え、専門業者による部屋全体のクリーニングなど。部屋の価値を上げる工事なので、貸主の負担です。

A(+B):普通にできるものが、手入れ不足で広がったもの → 借主負担
結露を放っておいて広がったカビ、換気扇やコンロまわりにこびりついた油汚れ、水回りの水垢など。もとは自然な傷みでも、掃除や手入れを怠って広がった分は、借主の負担になります。

B:使い方や不注意でできたもの → 借主負担
タバコのヤニや臭い、ペットがつけた柱のキズ、引越しのときの床のひっかきキズ、重いものを掛けるためのネジ穴など。借主の負担です。

3. 部位別の早見表:床・壁・建具・設備

ガイドライン(別表1)に出てくる例を、部位ごとに並べました。自分の部屋の傷がどこにあてはまるか、見てみてください。

部位払わなくていい(A・A(+G))手入れ次第で払う(A(+B))払う(B)
床(畳・フローリング・カーペット)・家具の設置によるへこみ・跡
・日差しによる畳の変色、フローリングの色落ち
・畳の表替え・裏返し(次の入居者のため)
・ワックスがけ
・飲み物をこぼして放っておいたカーペットのシミ・カビ
・冷蔵庫下のサビ跡(放置した場合)
・引越しでつけたひっかきキズ
・窓の閉め忘れで雨が吹き込んだ色落ち
・キャスター付きの椅子による床のキズ・へこみ
壁・天井(クロス)・日差しによる変色
・ポスターやカレンダーの跡
・画びょう・ピンの穴(下地ボードの張り替えが不要な程度)
・自分で付けたエアコンのビス穴・跡
・冷蔵庫やテレビ裏の黒ずみ
・台所の油汚れ(手入れが悪い場合)
・結露を放っておいて広がったカビ・シミ
・タバコのヤニ・臭い
・くぎ穴・ネジ穴(下地ボードの張り替えが必要な程度)
・天井に直接つけた照明器具の跡
・落書き
・エアコンの水漏れを放っておいた壁の腐食
建具・柱・ガラス・地震で割れたガラス
・網入りガラスの自然なひび
・網戸の張り替え(次の入居者のため)
―・ペットによる柱のキズ・臭い
・落書き
設備・その他・寿命による設備の故障
・鍵の交換(なくしていない場合)
・部屋全体のハウスクリーニング・エアコン内部の洗浄・消毒(次の入居者のため)
・風呂・トイレ・洗面台の水垢やカビ
・換気扇・コンロまわりの油汚れ・すす
・使い方を誤って壊した設備
・鍵をなくした・壊したときの交換

※国交省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」別表1をもとに作成。実際は傷の程度や契約内容(特約)で変わります。

表にない傷は、「普通に暮らしていてもできるか」「自分の使い方や手入れでできたか」で考えます。たとえばテープをはがした跡は、ガイドラインに例がなく、程度次第で判断が分かれるところです。

管理会社へのアンケート(国交省、令和4年)では、退去時にトラブルになりやすい部位として、クロス(壁紙)をあげた会社が73.5%、フローリングが52.4%でした(複数回答)。もめやすいのは、やはり壁と床です。このあとの計算も、壁と床を中心に見ていきます。

4. 「経過年数」で負担は大きく変わる

借主負担(Bや、手入れ不足のA(+B))の傷であっても、全額を払うとは限りません。壁紙や設備には「耐用年数」があり、年月とともに価値が下がっていくと考えるからです。

あなたが払うのは「新品にする代金」ではなく、「傷をつける直前に残っていた価値」の分だけ。古くなっていた壁紙なら、負担はそのぶん小さくなります。

借主の負担額の考え方。直す範囲×単価×残っている価値の割合。壁紙は6年で価値が1円まで下がるので、4年住んだら残りは約3分の1。フローリングの全面張り替えは建物の耐用年数(木造22年)で下がるため、減り方がゆっくり。

部位ごとの耐用年数(ガイドライン別表2より)

部位・設備耐用年数考え方
壁紙(クロス)、カーペット、クッションフロア、畳床6年6年で価値が1円になる。3年住んだら約半分、6年以上ならほぼ負担なし
流し台5年5年で価値が1円になる
エアコン・ストーブなどの冷暖房機器、冷蔵庫、ガスレンジ、インターホン6年6年で価値が1円になる
便器・洗面台などの給排水・衛生設備15年15年で価値が1円になる
ユニットバス・浴槽・下駄箱(建物に固定されたもの)建物の耐用年数木造22年、鉄筋コンクリート造47年など
フローリング(全面を張り替える場合)建物の耐用年数同上。部分補修のときは年数を考えない(下記)

※経過年数は、原則として入居した年数で数えます。入居時に新品でなかった壁紙などは、そのぶん価値が下がった状態から数えます。

年数を考えないもの(ここは注意)

一方で、経過年数を考えない、つまり借主の過失があれば何年住んでいても直す費用がそのまま負担になりやすいものもあります。

  • 畳表、襖紙、障子紙:消耗品なので、年数を考えません。
  • フローリングの部分補修:もともと長く使え、キズの部分だけ直せるため、年数を考えません。
  • 柱などの建具:年数を考えません。
  • 鍵をなくしたときの交換:交換費用の全額が借主負担です。
  • クリーニング:普段の掃除をしていなかった場合に限り、その部分または部屋全体の清掃費用が借主負担になります。

5. どこまで直す? 負担の単位

「壁に小さな傷をひとつつけただけなのに、部屋中のクロス代を請求された」。実務でよく聞く話です。ガイドラインは、借主の負担は傷んだ部分を直すための最低限の範囲、という考え方をとっています。

  • 壁紙(クロス):㎡単位が望ましいが、傷を含む一面分までは借主負担もやむを得ない、とされています。色や柄を合わせるために他の面まで張り替える費用は、借主負担になりません。部屋全体が借主負担になるのは、タバコのヤニや臭いが部屋全体に及んでいる場合です。
  • フローリング:原則㎡単位。キズの部分だけ補修できるなら、その分です。
  • 畳・襖:原則1枚単位。シミをつけた1枚分です。
  • カーペット・クッションフロア:原則㎡単位。ただし工事は1部屋単位になるので、傷が何か所にも散らばっている場合は部屋全体になることがあります。

6. 8畳の部屋で計算してみる

ここまでの考え方を使って、実際に計算してみましょう。国交省の参考資料(令和5年3月)にある計算例と同じ条件です。

条件:築10年の木造アパート。8畳の洋室に4年住んで退去

  • 壁紙:張り替え単価 1,200円/㎡、入居時に張り替え済み。耐用年数6年のうち4年たったので、残りの価値は約33.3%
  • フローリング:張り替え単価 15,000円/㎡、床は13㎡。新築のときのまま
8畳・4年入居の4つのケースの借主負担額。壁紙の破れ2面は8,000円、タバコで部屋全体の壁紙は16,000円、フローリングのキズ部分補修は30,000円、フローリング全面張り替えは70,909円。

ケース1:壁紙に破れ(左右の壁2面・20㎡)

物をぶつけて、左右の壁を1か所ずつ破いてしまった場合。張り替えは傷のある2面分、20㎡です。

20㎡ × 1,200円 × 33.3% = 借主の負担 約8,000円

ケース2:タバコで部屋全体の壁紙が変色(40㎡)

室内でずっとタバコを吸っていて、天井を含む壁紙全体が黄ばみ、臭いもついた場合。ヤニと臭いが部屋全体に及んでいるので、全体の張り替えが借主負担の対象になります。それでも、年数の考え方は同じです。

40㎡ × 1,200円 = 48,000円
48,000円 × 33.3% = 借主の負担 約16,000円(残りの32,000円は貸主負担)

ケース3:フローリングにキズ(部分補修2㎡)

家具を動かしたときに床をひっかいてしまった場合。キズの部分だけ、2㎡を補修します。フローリングの部分補修は、年数を考えません。

2㎡ × 15,000円 × 100% = 借主の負担 30,000円

ケース4:フローリングの全面張り替え(13㎡)

床全体をひどく傷めてしまい、全面の張り替えが必要になった場合。全面の張り替えは、建物の耐用年数で考えます。木造は22年。床は新築のときのままなので、築10年に入居して4年住んだ時点で14年たっています。

13㎡ × 15,000円 = 195,000円
残りの価値:1 − 14/22 ≒ 36.4%
195,000円 × 36.4% ≒ 借主の負担 70,909円(残りの124,091円は貸主負担)

クロスより床のほうが高くつきやすい理由

4つを並べると、壁紙の破れ(8,000円)より、床の小さなキズ(30,000円)のほうが高くなっています。理由は3つです。

  • 単価が違う。床の補修は1㎡あたり15,000円で、壁紙の12倍以上
  • 部分補修は、何年住んでも年数を考えない
  • 全面張り替えでも、建物の耐用年数(木造22年、鉄筋コンクリート造47年)で考えるので、価値の減り方がゆっくり

壁紙は6年住めばほぼ負担がなくなりますが、床はそうはいきません。退去のときに気をつけるべきは、壁より床です。

敷金はいくら戻る?(参考資料のケース)

国交省の参考資料には、退去の精算全体の例ものっています。鉄筋コンクリート造・築16年の2LDKに4年住み、敷金は12万円。請求の総額は266,000円でしたが、ガイドラインに沿って計算すると借主の負担は92,170円。敷金から27,830円が戻る、という結果です。

項目修繕費用借主負担ポイント
クロス(落書き2面・15㎡)36,000円6,000円4年入居で残り33.3%
フローリング(洋室10㎡)150,000円86,170円建物47年のうち20年経過、残り57.4%
畳の表替え(6畳)30,000円0円次の入居者のための表替え
クリーニング(全室)50,000円0円普段の掃除はしていた
合計266,000円92,170円敷金12万円から27,830円が戻る

請求額のまま払っていたら、敷金が戻らないどころか14万円以上の追加になっていたところです。見積もりの項目を一つずつ見る意味が、よく分かる例です。

7. 入居中にできること

退去費用は、住んでいるあいだの過ごし方でも変わります。今日からできることをまとめました。

入居中にできる4つのこと。入居した日に部屋を撮る、床を守る(椅子の下にマット、家具の脚にフェルト)、水回りと結露はこまめに、傷をつけたら早めに連絡。

入居した日に、部屋を撮っておく

床・壁・水回り・建具を、部屋ごとに全体とアップで撮っておきます。入居時のチェックシートをもらったら、気づいた傷を書き込んで控えを残しましょう。退去のときに「この傷は入居前からあった」と言える、いちばんの証拠になります。

床を守る

この記事で見たとおり、床のキズは高くつきます。キャスター付きの椅子の下にはマットを敷き、重い家具の脚にはフェルトを貼っておく。窓を開けたまま出かけて、雨を吹き込ませないこと。小さな手間ですが、効果は大きいところです。

壁に穴をあける前に、確認する

画びょうやピンの穴は貸主負担ですが、重いものを掛けるためのくぎ穴・ネジ穴は借主負担になります。棚や大きな時計を付けたいときは、先に管理会社に相談しておくと安心です。

水回りと結露は「こまめに」

結露をふかずに放っておいたカビや、換気扇・コンロの油汚れは、手入れ不足として借主負担になりやすいものです。元料理人の私から言うと、油汚れは時間がたつほど固まって落ちにくくなります。週に一度さっとふくだけで、退去のときの差は大きく変わります。

傷をつけたら、早めに連絡する

うっかり傷をつけたり、水漏れに気づいたりしたら、黙っていないで早めに管理会社へ連絡しましょう。放っておいて傷みが広がると、そのぶん負担も増えます。加入している火災保険で補償される場合もあるので、契約内容もあわせて確認してみてください。

8. まとめ

  • 借主の負担は「直す範囲 × 単価 × 残っている価値の割合」で決まる
  • 普通に暮らしてできた傷み(A)と、次の入居者のためのリフォーム(A(+G))は貸主負担。使い方や手入れ不足でできたもの(B・A(+B))が借主負担
  • 壁紙は6年で価値が1円になる。範囲は傷を含む一面分まで
  • 畳表・襖紙・障子紙・フローリングの部分補修・鍵の紛失は、年数を考えない
  • 床は単価が高く、年数でも減りにくい。気をつけるなら壁より床

見積もりが届いて、この記事の計算と大きく違うと感じたら、後編の「納得できない請求が届いたときの5つの手順」を参考にしてください。ひとりで判断がつかないときは、消費生活センター(局番なしの188)にも相談できます。

ジカビーの一言

退去費用の計算は、むずかしそうに見えて、実は「範囲」「単価」「年数」の3つだけです。この3つを聞けば、見積もりの多くは確かめられます。

賃貸の実務では、悪意からではなく、計算や区分けが抜けたまま見積もりが届くこともあります。だからこそ、借りる人が物差しを持っておくことが、いちばんの守りになります。

賃貸の契約やお金のことで迷ったら、LINEでご相談ください。

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』に関する参考資料」(令和5年3月)

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