
今日はもともと久ヶ原の「自然坊」へ行こうかと考えていたんだけど、外の強烈な陽射しと、どこからか漂ってきたうなぎの蒲焼の香ばしい煙に、僕の食欲はあらぬ方向へと暴走開始。
気づけば足先は迷うことなく、鵜の木の「とん清」へと向かっていました。
外観は一見すると控えめで殺風景にも映るんだけど、ドアを開けると印象は一変。
暖色のライトが心地よく照らす店内は、すっきりと整った空間。カウンター席のほかに、2名掛けと4名掛けのテーブルがひとつずつ。BGMに流れるアメリカンポップスが、肩肘張らずに食事ができるカジュアルな良い空気を醸し出していたんです。
メニューを開き、とんかつにするかカツ丼にするかで一瞬迷ったけど、初めて訪れるとんかつ屋で僕がよく注文するのは、決まってカツ丼。
カツ丼というのは、その店の仕事と姿勢が一番よく表れる料理だと思っていて…。
「カツを揚げて卵で閉じただけ」と思われがちなんだけど、実際は違う。豚肉を揚げる火入れと、割り下の中で卵を固める火入れ。この“ふたつの火入れ”のコントロールが交差する、極めて繊細な料理だと僕は思います。
そして、僕がカツ丼を愛してやまない理由は、あの独特の食感。
揚げたてのサクサクした衣に、出汁と卵が絶妙に絡み合い、少しずつ衣が汁を吸ってやわらいでいく瞬間。サクッとした歯ごたえと、とろりとした卵、そして柔らかくも心地よい噛み応えを残す豚肉が口の中で一体になるのがたまらないんですよ。

注文から約7分。期待に胸を膨らませていると、カツ丼が運ばれてきましたよ。
見るからに旨そうな佇まい。でも、慌てずにまずは、セットのお味噌汁から。
一口含んで、思わず声が出そうになっちゃったよ。「 旨い」。
出汁がしっかりと効いていて、その出汁自体にどこか豊かな甘みと深い旨味を感じるんです。
決して砂糖の甘さではない。口の中に上品に広がる、塩気と素材本来の出汁が織りなす暖かな甘み。具材の野菜も絶妙な柔らかさで、胃にじわっと染み渡ります。
いよいよ本丸のカツ丼へ。迷わず真ん中の一片を箸で持ち上げ、パクリと口に運ぶ。
そして一口食べて気づいたのは、その「味わい」の組み立て。
僕自身はどちらかというと、濃厚な割り下で煮詰められたあまじょっぱいカツ丼が好み。
でも、このお店のカツ丼は濃い割り下を前面に出すタイプではなく、非常にあっさりと仕上げているんです。
出汁と卵、豚肉そのものの旨味をストレートに味わわせる引き算の味付けなのかな。あまじょっぱさを求める僕の好みとは少し違う方向性だったけど、だからこそ、肉の柔らかさや衣の軽やかさ、仕込みの丁寧さがしっかりと際立って伝わってきます。
合間に挟むお漬物も僕の好きな味わいで。生姜の風味が心地よく効いていて、これがまたちょうどいい箸休めになってくれるんです。

店主の方の人柄も実に穏やかで、料理の端々、そして店の端々に温かな真心が満ちているのが感じられました。ふらりと立ち寄った街の小さな店で、こんなにも満ち足りた時間を過ごせることが何より嬉しいですね。
「次回は、特上とんかつを食べてみよう!」

そんな愉しみな宿題を自分に残して、店を後にしました。今日もごちそうさまでした。