更新の書類と一緒に、「次回から家賃を月8,000円上げます」というお知らせが届いた。
物価も家賃も上がっている今、こうした通知を受け取る人が増えています。東京都に寄せられた家賃値上げの相談は、令和6年度に1,366件。前の年度の約2倍になりました(東京都 住宅政策本部、2025年11月公表)。
先に結論を書きます。
家賃の値上げは、大家さんが一方的に決められるものではなく、話し合いで決めるものです。通知が来ても、すぐに応じる必要はありません。話し合いがつくまでは、今の家賃を払い続ければ住み続けられます。ただし、一度同意すると取り消すのは難しいので、サインの前によく考えましょう。
この記事では、値上げ通知が来たときの考え方と手順を、賃貸の実務に携わる宅建士の私がまとめます。
1. 値上げ通知が来たら、この順番で

2. 大家さんは、どんなときに値上げを求められる?
借地借家法32条1項では、次のような理由で家賃が「不相当」になったとき、大家さんも借主も、将来に向かって家賃の増額・減額を求めることができるとされています。
- 土地や建物にかかる税金などの負担が増えた・減った
- 土地や建物の価格が上がった・下がった、その他の経済事情が変わった
- 近くの似た建物の家賃と比べて、不相当になった
つまり、値上げを求めること自体はできます。でも、求めたからといって、自動的に家賃が上がるわけではありません。
なお、「一定の期間は家賃を上げない」という特約がある場合は、その期間は増額を求められません。
3. 応じるかどうか、確かめること
- 値上げの理由:何がどれだけ変わったのか、説明を求める
- 近くの相場:同じ駅、同じくらいの広さ・築年数の部屋の家賃を、ポータルサイトで調べる
- 値上げの幅:今の家賃と相場の差に比べて、妥当か
- ほかの条件:更新料や設備の改善など、交渉できることはないか
相場を調べてみて、今の家賃が明らかに安ければ、ある程度の値上げは受け入れて、そのぶん別の条件で折り合う、という選択もあります。
一度同意すると、取り消すのは難しい
東京都は、正当な理由のない大幅な値上げに簡単に応じないよう呼びかけ、「一度、同意してしまうと、後日、この同意を取り消すことは難しくなります」と注意しています。
更新の書類に新しい家賃が書かれていて、そのまま署名・押印すると、値上げに同意したことになります。金額をよく見てからサインしましょう。
4. 話し合いがつかないときは
今の家賃を払い続ける
借地借家法32条2項では、値上げについて話し合いがつかないとき、借主は、裁判で増額が確定するまで、自分が相当と考える額を払えばよいとされています。ふつうは、今の家賃です。
払い続けていれば、家賃の不払いにはならず、それを理由に契約を解除されることはありません。
受け取ってもらえないときは「供託」
大家さんが「値上げ後の額でなければ受け取らない」と言って、今の家賃を受け取ってくれないことがあります。そのときは、法務局(供託所)に家賃を預ける「供託」ができます。法務省の案内でも、値上げや明渡しの要求を理由に受け取りを拒否された場合が、供託できる例として挙げられています。
供託すれば、家賃を払ったのと同じ扱いになります。供託したら、そのことを大家さんに通知します。
調停で話し合う
大家さんが裁判で増額を求めたいときは、いきなり裁判ではなく、まず簡易裁判所の調停を申し立てることになっています(民事調停法24条の2)。調停では、調停委員が間に入って話し合います。
5. 知っておきたい「年1割の利息」
注意したいのは、裁判で増額が正当だと確定した場合です。そのときは、払っていた額との差額に、年1割の利息を付けて払うことになります(借地借家法32条2項)。
「断れば得」というわけではありません。相場から見て妥当な値上げなら、話し合いで折り合うほうが、結果的に負担が少ないこともあります。
6. 相談先
- 東京都 賃料値上げ特別相談窓口:03-5320-4958(平日9:00〜17:30)。必要に応じて弁護士の無料相談を紹介してもらえます(2025年10月開設)
- 消費生活センター:局番なしの188
- 弁護士・法テラス
7. まとめ
- 家賃の値上げは、話し合いで決めるもの。通知だけで自動的に上がるわけではない
- 一度同意すると取り消すのは難しい。更新書類の金額をよく見てからサインする
- 理由の説明を求め、近くの相場を調べる
- 話し合いがつくまでは、今の家賃を払い続ければよい。受け取りを拒まれたら供託
- 大家さんが増額を求めるなら、まず調停から
- 増額が確定すると、差額に年1割の利息が付く。妥当な値上げなら折り合うのも選択肢
ジカビーの一言
家賃の値上げは、大家さんにとっても切実な話であることが多いです。固定資産税や修繕費、ローンの金利が上がっている大家さんもいます。
だからこそ、感情的に「払いません」と突っぱねるより、理由を聞き、相場を調べ、数字で話すのがいちばんです。納得できる額で折り合えれば、これからも気持ちよく住み続けられます。
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参考:借地借家法32条、民事調停法24条の2、法務省「供託」、東京都 住宅政策本部「不動産取引に関する相談及び指導等の概要(令和6年度)」(2025年11月19日)、東京都「賃料値上げ特別相談窓口」開設の発表(2025年10月9日)、国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(令和4年3月)。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第4章(更新と解約)#29。連載の目次を見る