ある日、大家さんや管理会社から、こんな連絡が届いた。
「建物を建て替えるので、次の更新で出ていってほしい」
「家族が住むことになったので、退去をお願いしたい」
突然のことで、頭が真っ白になるかもしれません。
先に結論を書きます。
ふつうの賃貸借契約(普通借家)なら、大家さんから「出ていってほしい」と言われても、すぐに出ていく必要はありません。契約を終わらせるには、決められた時期の通知と、「正当事由」が必要です。正当事由がなければ、契約は続きます。ただし、定期借家なら話が変わるので、まず契約の種類を確かめましょう。
この記事では、立ち退きを求められたときに確かめる順番を、賃貸の実務に携わる宅建士の私がまとめます。
1. まず確かめる4つのこと

2. 契約の種類:普通借家か、定期借家か
契約書の表題や重要事項説明書を見てください。
- 普通借家契約:期間が来ても、借主が望めば原則として更新される契約。大家さんから終わらせるには正当事由が必要
- 定期借家契約:期間が来たら更新されずに終わる契約。契約の前に、書面で「更新がない」ことの説明を受けているはず
定期借家なら、期間の満了で契約が終わるのが原則で、立ち退き料も原則として発生しません(期間が1年以上なら、満了の1年前〜6か月前に終了の通知が必要です)。2つの違いは、普通借家と定期借家の記事で詳しく解説しています。
ここからは、多くの人が当てはまる普通借家の場合の話です。
3. 通知の時期は合っている?
大家さんが契約を終わらせる方法は、2つあります。
| 方法 | ルール(借地借家法) |
|---|---|
| 更新しない通知(期間の定めがある契約) | 期間満了の1年前から6か月前までに通知が必要。この期間に通知がなければ、同じ条件で更新したものとみなされる(26条1項) |
| 解約の申入れ(期間の定めがない契約) | 申入れの日から6か月たつと終了する(27条1項) |
たとえば、満了の3か月前に「更新しません」と言われても、それだけでは契約は終わりません。また、通知が期限内でも、期間が終わったあと借主が住み続け、大家さんがすぐに異議を言わなければ、やはり更新したものとみなされます(26条2項)。
4. 「正当事由」がなければ契約は終わらない
借地借家法28条では、更新しない通知や解約の申入れは、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができないとされています。正当事由は、次のことを総合して判断されます。
- 大家さんと借主、それぞれが建物を使う必要性
- これまでの賃貸借の経過(家賃の支払い状況、契約の経緯など)
- 建物の利用状況と、建物の現況(老朽化の程度など)
- 立ち退き料など、大家さんが申し出た財産上の給付
いちばん重く見られるのは、双方がその建物を必要とする事情です。立ち退き料は、それだけで正当事由が決まるものではなく、足りない分を補う要素と考えられています。
「建て替えるから」「古いから」というだけで、当然に認められるわけではありません。国土交通省の相談対応事例集でも、法定更新の要件を満たしていれば、退去する必要はないと考えられる、と説明されています。
なお、これらのルールより借主に不利な特約は無効です(30条)。契約書に「貸主から申し入れれば1か月で退去する」とあっても、その特約は効力がありません。
5. 立ち退き料はいくら?
立ち退き料の金額や計算方法は、法律で決まっていません。 公的な相場の資料もありません。
法律事務所の解説などでは、住まいの場合「家賃の6か月〜1年分」という目安がよく紹介されていますが、これは出典のない業界の目安です。実際には、立ち退きで借主にかかる費用を積み上げて考えるのが現実的です。
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 引っ越し代 | 荷物の量と距離で変わる |
| 新しい部屋の初期費用 | 敷金・礼金・仲介手数料・保証料など |
| 家賃の差額 | 同じ条件の部屋が今より高い場合、その差額の一定期間分 |
| 二重家賃 | 引っ越しの時期が重なる期間の家賃 |
| その他 | 転校・通勤の変化、ネット回線の工事費など |
新しい部屋の初期費用の目安は、初期費用の内訳の記事を参考にしてください。
6. 合意して出ていくなら、書面で
話し合いの結果、出ていくことにした場合は、合意書(覚書)を必ず書面で交わしましょう。サインする前に、次のことを確かめます。
- 明渡しの日:無理のない日か。延びたときの扱い
- 立ち退き料の金額と、支払いの時期・方法:明渡しと引き換えか、先に一部をもらえるか
- 原状回復の扱い:原状回復を免除してもらえるか
- 敷金の扱い:全額返ってくるか、いつ返ってくるか
- 明渡しまでの家賃:免除や減額があるか
その場でサインを求められても、一度持ち帰って読み返してください。
7. 困ったときの相談先
- 消費生活センター(局番なしの188)
- 自治体の不動産相談(東京都なら住宅政策本部の不動産相談)
- 弁護士・法テラス:金額の交渉や、調停・裁判になりそうなとき
8. まとめ
- 大家さんから「出ていってほしい」と言われても、すぐに出ていく必要はない
- まず契約の種類を確かめる。定期借家なら期間満了で終わるのが原則
- 普通借家なら、更新しない通知は満了の1年前〜6か月前。解約の申入れは6か月たってから終了
- 正当事由がなければ契約は終わらない。立ち退き料は補う要素
- 立ち退き料に法律の基準はない。かかる費用を積み上げて考える
- 合意するなら、明渡し日・金額・原状回復・敷金を書面にしてから
ジカビーの一言
住まいを移るのは、お金だけでなく、時間も気持ちも使う大仕事です。「出ていってほしい」と言われたら、まず深呼吸して、契約書を開いてください。
法律は、住んでいる人の暮らしを守るようにできています。そのうえで、大家さんにも事情があります。お互いの事情を出し合って、納得できる形を探す。それが、いちばん後悔の少ない終わり方です。
賃貸の契約やお金のことで迷ったら、LINEでご相談ください。
参考:借地借家法26条・27条・28条・30条・38条、国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(令和4年3月)。立ち退き料の目安は法律事務所などの解説で紹介されているもので、公的な基準ではありません。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第4章(更新と解約)#28。連載の目次を見る