鍵を受け取って、新しい部屋に入った日。荷物を運び込む前に、ぜひやってほしいことがあります。
部屋の写真を撮ることです。
先に結論を書きます。
退去のときに「この傷は入居前からありました」と言えるかどうかで、退去費用は大きく変わります。その証拠になるのが、入居日に撮った写真です。荷物を入れる前の、何もない部屋を撮っておきましょう。
アットホームが加盟店に聞いた「入居直後に実施すべきこと」のランキングでも、1位は「室内の写真を撮る(傷などの確認)」で57.9%でした(2025年3月発表)。不動産のプロの多くが勧めていることです。
この記事では、どこを、どう撮り、どう残せばよいかを、賃貸の実務に携わる宅建士の私がまとめます。
1. なぜ入居日の写真が大事なのか
退去のとき、借主が直す義務を負うのは、借主が付けた傷や汚れです。ふつうに暮らしていてできた傷み(通常損耗)や、年月による劣化(経年変化)は、借主の負担ではありません(民法621条)。
ところが、退去のときに部屋を見ても、その傷がいつ付いたのかは分かりません。前の入居者が付けた傷なのに、自分の負担にされてしまう。これが退去費用トラブルのよくある形です。
国民生活センターも、入居時から前の住人の汚れが残っていたのに約90万円を請求された、という相談事例を紹介し、入居時に傷や汚れを確認して記録するよう呼びかけています(2025年2月)。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、入居時と退去時に部屋の状況をチェックリストで確認し、写真を添えるとより望ましいとしています。こうした記録は、もし裁判になったときにも証拠になります。
退去費用の考え方は、原状回復ガイドラインの記事で詳しく解説しています。
2. どこを撮る?

国交省や東京都のガイドラインにある「入退去時の物件状況確認リスト」の項目にそって撮ると、漏れがありません。
| 場所 | 撮るところ |
|---|---|
| 居室 | 床(フローリング・畳・カーペット)、壁(クロス)、天井、窓ガラス・網戸・サッシ、カーテンレール、コンセント・スイッチ |
| 玄関・廊下 | ドア、靴箱、床、インターホン |
| キッチン | コンロ、シンク、換気扇、収納の扉の内側 |
| 浴室・洗面 | 浴槽、壁・床のタイル、鏡、排水口、洗面台 |
| トイレ | 便器、床、壁、温水洗浄便座 |
| 建具 | 室内のドア、ふすま、障子、クローゼットの扉 |
| 設備 | エアコン、給湯器、照明 |
特に、床の傷・凹み、壁紙のはがれ・しみ、建具の傷は、退去時に問題になりやすいところです。
3. どう撮る?
「全景→部位→寄り」の3段階で
- 全景:部屋の入口から、部屋全体を1枚
- 部位:床・壁・天井などを、場所が分かる範囲で1枚ずつ
- 寄り:傷や汚れを見つけたら、近づいて1枚
寄りの写真だけだと、どこの傷か分からなくなります。全景と寄りをセットにするのがコツです。
傷の大きさが分かるように
傷や凹みには、メジャーや定規を当てて撮りましょう。大きさが分かると、退去時に「傷が広がった」と言われたときにも比べられます。
動画で一周するのも有効
スマートフォンで、部屋の中をゆっくり一周する動画を撮っておくと、部屋全体の状態をまるごと残せます。
設備は動くところも撮る
国民生活センターは、エアコンなどの備え付け設備が動くかどうかも、入居時に確認するよう勧めています。エアコンの送風、給湯器のお湯、換気扇などは、動かしている様子を動画で撮っておくと安心です。故障したときの話は、エアコン・給湯器が壊れたときの記事にまとめています。
4. どう残す?
- 撮影日時が残る形で保存する:スマートフォンの写真には、撮影日時のデータが記録されます。加工やトリミングをせず、元のデータを残しましょう
- クラウドにもバックアップする:機種変更で消えてしまわないように
- 管理会社にメールで送る:「入居時の状況です」と写真を送っておくと、相手側にも記録が残ります
- 入居時チェック表にも書き込む:管理会社からチェック表を渡されたら、写真の番号と一緒に書き込んで、控えを残す
東京都のガイドラインでは、貸主が立ち会えないときは、借主が自分で確認書をつくり、日付入りの写真を撮っておくよう助言しています。
5. いつ撮る?
鍵を受け取ってすぐ、荷物を運び込む前がベストです。家具を置くと、床や壁の一部が隠れてしまいます。
引っ越し当日に時間がなければ、鍵を受け取った日に少しだけ早く行って撮る、という方法もあります。30分ほどあれば、ワンルームならひととおり撮れます。
6. まとめ
- 退去時に「入居前からあった傷」と言えるかで、退去費用は変わる
- 国交省のガイドラインも、入退去時のチェックに写真を添えることを勧めている
- 撮り方は「全景→部位→寄り」。傷にはメジャーを当てる
- 設備は動いている様子を動画で
- 撮影日時を残し、クラウドに保存し、管理会社にもメールで送る
- 撮るのは、荷物を入れる前
ジカビーの一言
退去のときの話し合いは、記録がある人のほうが落ち着いて進められます。写真は、自分を守るためだけでなく、大家さんや管理会社と冷静に話すための材料でもあります。
引っ越しの日は慌ただしいものですが、30分だけ、何もない部屋をゆっくり眺めてみてください。新しい部屋のことを知るいい時間にもなります。
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参考:民法621条、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)、東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」第4版(2022年12月)、国民生活センター「賃貸住宅退去時トラブルの対処法-入居時からできる対策-」(2025年2月21日)、アットホーム「不動産のプロに聞いた『入居直後に実施すべきこと』」(2025年3月5日)。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第3章(入居中のトラブル)#19。連載の目次を見る