内見して、気に入って、その日のうちに申込書を書いた。でも家に帰って冷静になると、やっぱり別の部屋のほうがいい気がしてきた……。
「申込みって、キャンセルできるの?」「申込金は返ってくる?」
部屋探しでとても多い悩みです。
先に結論を書きます。
賃貸の「申込み」は、契約ではありません。契約が成立するまでは、申込みを撤回できます。そのときに払った「申込金」は、名前が何であっても預り金なので、返してもらえます。
この記事では、申込みから鍵を受け取るまでの流れと、それぞれの段階でキャンセルするとどうなるかを、賃貸の実務に携わる宅建士の私がまとめます。第2章「契約書と重要事項説明」のしめくくりの記事です。
1. 申込みから鍵渡しまでの流れ

一般的な流れは、次のとおりです。
- 申込み:申込書を書き、身分証などを出す。申込金を払うこともある
- 審査:大家さんと保証会社が審査する(3日〜1週間ほど)
- 重要事項説明:宅建士から、契約前の大事な説明を受ける
- 契約書への署名:契約書に署名・押印する(電子契約のこともある)
- 初期費用の入金:敷金・礼金・前家賃などを払う
- 鍵渡し・入居
申込みから入居までは、2週間〜1か月ほどが目安です。
2. 契約はいつ成立する?
民法では、契約は「申込み」に対して「承諾」があったときに成立します(民法522条)。賃貸の場合、一般には、契約書に双方が署名・押印した時点で成立すると考えられています。
ただし、重要事項説明を受け、初期費用を払い、鍵を受け取っていれば、契約書の署名の前でも契約が成立したとみなされることがあります。どの段階まで進んでいるかが大切です。
3. 段階ごとのキャンセルの考え方
| 段階 | 契約は? | キャンセルすると |
|---|---|---|
| 申込み〜審査中 | 成立していない | 撤回できる。申込金は返してもらえる |
| 審査通過〜重要事項説明 | 成立していない | 撤回できる。申込金は返してもらえる |
| 契約書に署名・押印したあと | 成立している | 「解約」になる。初期費用は、契約の内容によっては戻らない |
| 鍵を受け取ったあと | 成立している | 解約予告期間の家賃などがかかることがある |
※一般的な考え方です。実際の判断は、やりとりの内容や契約書の定めによって変わります。
審査が通ったあとにキャンセルすると、不動産会社や大家さんに迷惑がかかるのは事実です。ただ、契約が成立する前であれば、キャンセル料を払う法的な義務は原則としてありません。
4. 申込金は「預り金」。返してもらえる
申込みのときに、「申込金」「申込証拠金」「預り金」などの名前で、数万円を払うことがあります。
これは、名前が何であっても、契約の前に預かっているお金(預り金)です。宅地建物取引業法の規則では、不動産会社は、契約が成立しなかったときに、預り金の返還を拒むことを禁止しています(宅地建物取引業法施行規則16条の11)。自治体の資料でも、名称を問わず返さなければならないと説明されています。
「手付金だから返せない」と言われることがありますが、申込みの時点で払うお金は手付金ではありません。
申込金を払ったら、預り証をもらう
- 金額と日付
- 「預り金」であること
- 契約が成立しなかった場合は返還する旨
が書かれた預り証をもらっておくと安心です。
5. キャンセルするときの伝え方
- できるだけ早く:気持ちが決まったら、すぐに連絡する
- 電話+メールなど、記録が残る形で:「○月○日に申込みを撤回します」と伝える
- 申込金の返し方を確認する:振込先、いつ返ってくるか
理由を長く説明する必要はありません。「申し訳ありませんが、今回は見送らせてください」で十分です。
もし返金を断られたら、宅地建物取引業者を監督する都道府県(東京都なら住宅政策本部の不動産業課)や、消費生活センター(局番なしの188)に相談できます。
6. 「クーリング・オフ」はない
賃貸借契約には、クーリング・オフの制度はありません。国民生活センターも、若い人向けの注意喚起で、賃貸住宅の契約はクーリング・オフの対象外だと呼びかけています。
だからこそ、契約書に署名する前に、重要事項説明をしっかり聞き、納得してから進むことが大切です。重説で確かめたいことは、重説で聞き流してはいけない3か所にまとめています。
7. まとめ
- 申込みは契約ではない。一般には、契約書に署名・押印したときに契約が成立する
- 契約の成立前なら、申込みを撤回できる。キャンセル料を払う義務は原則ない
- 申込金は、名前を問わず預り金。不動産会社は返還を拒めない
- 申込金を払ったら、預り証をもらう
- 賃貸借契約にクーリング・オフはない。署名の前に納得する
ジカビーの一言
申込みをキャンセルするのは、気まずいものです。でも、迷いがあるまま契約するほうが、結局は誰にとっても困ることになります。
迷ったら、早めに正直に伝える。それがいちばん誠実なやり方です。そして、契約書に署名する前に、もう一度だけ「本当にここでいいか」を考えてみてください。
これで「借りる前に読む、賃貸の話」第2章、契約書と重要事項説明の話はひと区切りです。次の章では、住んでからのトラブルを扱います。
賃貸の契約やお金のことで迷ったら、LINEでご相談ください。
参考:民法522条、宅地建物取引業法47条の2、宅地建物取引業法施行規則16条の11、大阪府・埼玉県の預り金に関する資料、国民生活センター「若者の消費者トラブル」(2022年3月)。
連載「借りる前に読む、賃貸の話」第2章(契約書と重要事項説明)#17。連載の目次を見る